高野和明
- 2005/07/10
高野和明『グレイヴディッガー』 -
ノン・ストップ東京縦断逃避行サスペンス。高野和明の受賞第二作を一言で表すとしたら、さしずめそんなところか。
本書の主人公・八神は、小さな頃から悪事を重ねてきた悪党。改心を決意して骨髄ドナーに登録したはいいが、移植手術目前になって発生した連続猟奇殺人事件に巻き込まれてしまう。もし捕まったら、白血病患者の命はない。部屋に上がりこんできた正体不明の男たち、連続殺人鬼、重要参考人として八神を手配した警察から、なんとしても逃げ延びなくてはならない。わけもわからぬまま、八神はひとり、命がけの逃走を開始した。
のっけから、出し惜しみなくノン・ストップ。一度読み出したら、休憩するのも億劫になるほど引き込まれる抜群の面白さ。主人公がひたすら逃げ回るだけならただハラハラドキドキして終わってしまうのだが、それだけで終わらないのがこの著者の素晴らしいところ。
変死体が盗まれるという奇妙なプロローグに始まり、謎が謎を呼ぶ緻密なプロット、決死の逃避行と並行して徐々に解きほぐされていく複雑に絡まった糸、スリリングかつスピーディーでテンションの落ちない展開、とミステリとしての構成もしっかりしている。
映像的で分かりやすい語り口も、臨場感がある上に読みやすくて魅力的。立場の違う主義、主張を語らせることで難しい問題も扱っていて読み応えもある。思わず微笑んでしまうようなユーモアもあって、逼迫した状況に彩を与えている。このセンスの良さも秀逸。
ミステリ好きなら至福の数時間を過ごせる傑作。
- 2005/07/08
高野和明『13階段』 -
正義とは一体何なのか?
第47回江戸川乱歩賞を受賞したこの『13階段』は、刑の執行が迫った死刑囚の冤罪を証明するという単なるタイム・リミット・サスペンスでは終わらない。理屈勘定では処理しきれない司法制度の矛盾点を、前科者と刑務官のコンビを主人公に据えることで浮き彫りにし、鋭く抉っている。重いテーマを扱っていながら、一級のエンターテイメント小説に仕上がっている上に、強いメッセージも込められている。
犯行時刻の記憶を失い、改悛の情なしとして死刑判決を受けた死刑囚。刑の執行が刻一刻と迫る中、刑務官・南郷と前科のある青年・三上は、その冤罪を晴らすべく調査を開始する。しかし、手掛かりは死刑囚の脳裏に蘇った階段の記憶のみ。残された僅かな時間で、ふたりは無実の男の命を救うことは出来るのか。
落ち着いていて分かりやすい語り口ながら重厚感もある。理想と現実の狭間で揺れ動く苦悩をキッチリ盛り込んだ説得力、二転三転する緻密なプロット、結末に向けたスピーディーな展開がサスペンスフルな終盤の畳み掛けなど、とても新進作家のデビュー作とは信じ難い魅力が溢れている。
それもそのはずで、著者は映画やドラマの制作、脚本の世界で経験を積み、アメリカに留学して映画製作について学んでいた経歴を持っている。このエンターテイメント製作に関わっていた経験が、この作品を書き上げる上で大きなプラスに働いたことは想像に難くない。
今後の大活躍が楽しみになる傑作長編。