恩田陸

2006/12/02
恩田陸『夜のピクニック』

 確か中学二年の時だったか。立志式という学校行事があった。フルマラソンと同じ距離だったかな。42.195キロ。早朝出発し、海岸線沿いに各自のペースでひたすら歩き、夕方までに母校を目指すというものだ。それが、この物語の舞台となる歩行際というイベントに似ていて、なんとなく懐かしいような気持ちになった。

 あの時、自分は何を考え、感じていたんだろうか。よく分からない。42キロも歩くとなると、相当きつかったんじゃないかと思うのだが、不思議と辛かったと感じた覚えがない。友人たちと気ままにしゃべりながら歩いていたら、いつの間にかゴールしていたといった感じだったからかもしれない。

 この行事での一番の衝撃はあれだな。悪友のひとりが目ざとく見つけてきた、無修正のグラビア。中坊には刺激が強すぎた。一番印象深かったのは、ゴール直前の休憩所で振舞われた豚汁の美味さ。豚汁をあれほど美味く、ありがたく感じたのは、あれ以来ないかもしれない。

 全編、ただ歩いているだけ。それなのに、胸が切なくなるような、それでいてたまらなくいとおしくなるような、青春としかいいようがない物語が展開する。驚天動地の衝撃や奇妙奇天烈な事件、壮大な感動や激烈な恋愛はない。それでいて、ちょっとした発見やささやかな喜びが、とても眩しいものに見える。微笑ましく可愛らしく、そしてむちゃくちゃ面白い。

 願わくば、立志式に臨む前にこの小説と出会いたかった。