東野圭吾
- 2006/11/25
東野圭吾『手紙』 -
僕は、この小説が嫌いだ。誤解のないように断るが、物語には引き込まれて、貪るように一気に読んだ。それでも、この小説は嫌いだ。読んでいて、内容がくだらないという理由以外で、苦痛でいたたまれなくなってしまったのは、初めてかもしれない。
もしも、自分の身内が犯罪者だったら。周りの環境は、一体どう変化するのだろう。そんな想像を働かせてみようとするだけで、怖くなる。
例えば、弟が結婚を考えている女性を紹介してくれたとする。もちろん嬉しいし、心から祝福する。でも、もしもその女性の例えば兄が、強盗殺人犯だったということが、後になって発覚したら。
酷いといわれるかもしれないが、自分の態度は、きっと変わる。反対まではしないと思うが、それも思うだけで、実際はどうだか自信がない。少なくとも、口には出さなくても、この話が白紙になれば良いのにくらいは念じるだろう。そして、過剰に気を遣って、すべての仕草がよそよそしく、ぎこちなくなるに違いない。
もちろん、弟が付き合っている女性に、罪はない。犯罪者はその兄なのだから。そんなことは分かっている。でも、頭では分かっていても、どうしようもなく態度はきっと変わる。自己嫌悪に苛まれながらも、それでもきっと、距離を取った付き合いをしてしまうと思う。
そんな自分の残酷さを、主人公が感じた苦痛を通して、ずけずけと遠慮なく指摘されているようだ。だから、僕はこの小説が嫌いだ。もちろん、主人公とその家族が直面する現実があまりにも酷いから、それが可哀想で読んでいてツライ、というのもある。でもそれ以上に、自分が潜在的に秘めている残酷さを思い知らされるようで、それがまた胸に応える。
ラストには泣いた。ただ悲しくて泣いた。
- 2006/03/23
東野圭吾『レイクサイド』 -
'05年、『レイクサイド・マーダーケース』という題で映画化された原作。殺人事件の隠蔽に手を染めた4組の親子の、常軌を逸した行状を淡々と書き綴った一編。
さりげなく伏線を散りばめ、一見単純な背景に見せかけながら、予想がかすってもその上を行く展開で二転三転するストーリー。軽いわけではないのだが、平易で読みやすい文章なので、あっという間にサクサク読める。インパクトは強烈ではないんだけど、ズシリと残る読み応え。
ミステリとしては、締めが中途半端に感じる。しかし、あれ以上続けてもダレて冗長に感じるだけかもしれないので、あそこでスパッと切るのも一手かもしれない。
この終わり方、東野先生は、もしかしたら続編を考えてるかもしれないね。ひょっとすると、本文中に、誰が真犯人かを指すヒントまで示しているかもしれない。自分には、そこまで読み解く頭がないので、例えヒントがあったとしても気付けないだろうけど。
鉄の団結で空とぼける4組の親子。僅かな齟齬を突いて崩しにかかる警察との攻防は面白そうだ。考えれば考えるほど、加賀シリーズにピッタリに思えてくる。もう書いてたりして。
- 2006/01/20
東野圭吾『さいえんす?』 -
『ダイヤモンドLOOP』や『本の旅人』といった雑誌に掲載された連載を収録したエッセイ集。
『あの頃僕らはアホでした』のようなお笑い青春群像路線ではなく、インターネット問題やダイエット、プロ野球界への提案やますます便利になっていく社会への警句など、科学的な視点を交えつつ時事ネタや身近な問題を書き綴っている。
30編近く収録されているが、雑誌への寄稿ということで各6ページほどと短めなので、気軽にさくさく読める。かといって、あっさりしているかというとそうでもない。文章がやや固めなこともあるのかな。具体例を挙げつつ問題提起しているので考えさせられるところもある。
個人的に特に感心したのは、堀内前巨人監督の采配を上位三チームの得失点データを元に検証した一編。分析の鋭さと着眼点はさすがで、短い中に要点を簡潔にまとめて説得力も充分。
小説はもちろんのこと、エッセイも面白いねぇ。さすが。