逢坂剛『牙をむく都会』

2006/07/05

 著者の分身ともいえるキャラクター、現代調査研究所所長・岡坂神策が、古書の街として有名な神田神保町を舞台に活躍するシリーズの大長編。

 ある輸入もののレア中古ビデオを店頭で奪い合うという、他人事とは思えないようなマニアックな幕開けにまず笑った。それが縁で大きな仕事が舞い込み、ふたつの仕事を並行して手がけているところに、第二次世界大戦時にソ連との間で交わされたというある密約の存在が浮上し、その密約が実在したかどうかを探ってゆくサスペンス。

 ふたつの仕事は、一見無関係のようでしっかりと関連付けられている。伏線が張り巡らされていて、油断していると簡単に作者の術中にハマり、踊らされる。皮肉などんでん返しのキレもさすがで、キレイに騙されて喜びを感じるタイプの読者ならば悦楽を味わえるはず。

 主要登場人物の憎めないキャラ作り、オシャレでウィットに富んだ会話のやり取りなども魅力的なのだが、何よりも圧巻だったのは、作者の映画への深い造詣とその偏執的なまでの愛情だ。

 その深さといったら、思い入れのある映画についてのウンチクをたっぷりと語るためだけに、ビデオやDVD化されたり、衛星放送などでも放送されるなど人気の高い名作をあえて外した採算度外視のハリウッド・クラシック映画祭をぶち上げてしまったほどだ。この映画祭を洋楽に例えれば、LINKIN PARKやMETALLICA、MUSEにHOOBASTANKといった大物を呼ばずに、サマソニを開催するようなものだろう。無謀もいいところだ。

 そして、原題をカタカナに置き換えただけの芸のないタイトルの流布や、CG映像技術に頼るあまりに脚本やドラマが弱くなりがちな大作に偏重している現状を、主人公の姿を借りて憂いている。このあたりの主義主張には、自分にも思うところがあったので共感した。気の利いた面白い映画が観たいんだよね。

≪ 浅田次郎『椿山課長の七日間』(2006-06-25)
東野圭吾『手紙』(2006-11-25) ≫